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西鉄
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グリーンズグリーン九州
西日本鉄道グループ(以下、西鉄)の各事業が抱える課題に対し、グループ外から幅広く事業アイデアを募集するオープンイノベーションプログラム『Join up with Nishitetsu』。初実施となった2024年度は、107件の応募のなかから5件が選考を通過した。
採択企業のひとつである株式会社グリーンズグリーン九州は、バス事業の課題解決に向けて、特許取得の防草緑化一体型スナゴケシートによる雑草対策を提案。西鉄では、実証実験の経過を見ながら、苔を活用した事業も視野に入れている。
採択までの経緯や施工試験、協業がもたらす相乗効果などについて、プログラムに携わる4人のキーマンに話を伺った。
鉢物園芸品の一大生産地・新潟県に本社を構え、福岡や福島にグループ会社をもつ“苔のプロフェッショナル”。効率的に苔を栽培する技術や、苔を使用した高付加価値商材などを開発する。緑地率の確保に伴う植栽維持管理費や防草費用の軽減、農業・園芸による障がい者の自立支援に繋がる仕事の創出など、社会が抱えるさまざまな課題解決に取り組んでいる。
https://greensgreen.jp
西鉄・末永氏
新規の事業やサービスを創出する新領域事業開発部は、スタートアップ企業の皆さんから、多くの協業のお話をいただきます。提案内容はバスや電車、シニアマンションに関するものなど多岐にわたりますが、残念ながら当社が抱える課題とのマッチング率は、決して高いとは言えませんでした。
そこで年に一度、当社から具体的な課題を提示して、それを解決していただける企業を募ることにしました。各部門が抱える課題を、新たなテクノロジーやサービスによって解決。さらに事業化というかたちで将来像までイメージできれば、にしてつグループが2035年に実現したい社会像として掲げる「居心地のよい幸福感あふれる社会」に貢献できるのではないかと考えました。
西日本鉄道株式会社:新領域事業開発部 係長/末永善彦 氏
グリーンズグリーン九州・梶原氏
当社では「苔の特性を活かして、地域や企業、社会が抱える課題解決に取り組む」という経営理念を掲げています。環境負荷の少ない緑化や景観の維持、さらには持続可能な街づくりに貢献したいという思いが、『Join up with Nishitetsu』の募集要項に非常にマッチしたため応募しました。西鉄さんの掲げる「居心地のよい幸福感あふれる社会」の実現に通じる思いもありました。
株式会社グリーンズグリーン九州:代表取締役/梶原大地 氏
西鉄・末永氏
各事業部の管理部門が、実担当者にヒアリングして課題を吸い上げていきました。300件ほど上がってきたなかから、「これは特に解決したい」「協業することで、より効果的に解決できそうだ」という課題を議論し、最終的に80件ほどに絞り込みました。
西鉄・塩田氏
我々が把握していないだけで、部門ごとにこんなに様々な課題があるのかと驚かされました。なかでも、自動車事業本部が抱える雑草問題は意外でした。本社にいると、各施設の雑草を目にすることがないので、従業員の皆さんが困っていることを知る機会がなかったんですよ。
西日本鉄道株式会社:新領域事業開発部/塩田昂明 氏
西鉄・江頭氏
雑草問題はきりがなくて、毎年、梅雨明けくらいになると、いろいろな営業所から相談が寄せられます。基本的には、各営業所の社員さんに時間を作ってもらい、除草作業にあたるようお願いしています。しかし、人が常駐していない場所は管理が行き届かず、近隣住民の方からお声をいただくことがあったんです。防草シートを敷いたり、業者さんに除草作業を依頼したりと対応はしていましたが、どうしても人手不足や費用は課題として残ります。
西日本鉄道株式会社:自動車事業本部 計画部 計画担当/江頭直也 氏
西鉄・末永氏
これはできるだけ恒久的な対策が必要だと考え、「バス営業施設に於ける、路面舗装強化および雑草対策ソリューション」として募集課題に組み込みました。どのような企業が手を挙げてくれるのだろうと気になっていましたが、グリーンズグリーン九州さんの提案を見たときは「そんな手があったのか!」と驚きました(笑)。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
スナゴケシートと呼ばれる、防草緑化一体型シートを活用した雑草対策を提案させていただきました。東日本ではすでに、駅のホーム脇や線路脇の法面、空き地など多くの場所にスナゴケシートを導入しています。
スナゴケシートは、裏地が防草シートになっていて、不織布の上にスナゴケが生えています。一般的な防草シートの耐用年数は5〜10年ほどですが、このシートはスナゴケが紫外線をブロックするため、約30年の耐用性を示す実証データがあります。
また、日々のメンテナンスも不要で、肥料や水を与えなくても日光と雨だけで生存できます。1年に1cmほどしか成長しないため、伸びすぎる心配もありません。さらに、特殊な構造により二酸化炭素の吸収固定にも優れ、PM2.5や粉塵・重金属といった大気汚染物質を栄養にするため、空気清浄効果も期待できます。
特許取得の防草緑化一体型スナゴケシート。
西鉄・塩田氏
ほかの防草シートや人工芝と比べて、スナゴケシートは耐用性、価格、メンテナンス、さらにはSDGsやサステナブルへの貢献と、あらゆる点で魅力的でした。そもそも、「苔で課題解決」という発想がユニークで、提案していただいた時点からすごく興味を持っていたんです。
西鉄・江頭氏
4月に、西鉄エムテック千代の裏手にある敷地にスナゴケシートを設置しました。1m×20m弱とちょうどよい広さで、人や車も通らないので、実証実験を行ううえで最適な場所です。現在、1年かけてどんなふうに成長していくかを検証しているところです。
西鉄・江頭氏
3ヶ月ほど経ちましたが、今のところ順調です。数日前に様子を見に行ったときも、雑草はまったく生えていませんでした。従来の除草費用を踏まえると、30年も耐用年数があるのであれば費用対効果は十分にあります。
西鉄・末永氏
30年ももつってすごいですよね。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
そこはご安心ください。新潟大学で行った加速試験で、しっかり実証されています。
西鉄・江頭氏
34〜35度の炎天下でも枯れていないので、次は冬場が気になるところですね。今のところは、期待していた100%の効果が出ています。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
ありがとうございます。秋口は苔がもっとも生育しやすく、冬は朝露の水分を吸収できるので生命活動が活発になります。暑い時期さえ乗り切れば、問題ないと考えています。
乾燥したスナゴケに水を与えると、乾眠状態だったものが再び生き生きとした緑色を取り戻す。
西鉄・塩田氏
施工はグリーンズグリーン九州さんに主導していただき、予算に関しても自動車事業本部が確保に努めてくれたので、スムーズに進めることができました。実証実験の規模に見合った場所を用意できたのも、要因として大きいと思います。広すぎると初期投資がかかり、事業部内で実証実験を承認するハードルが高くなってしまいますから。無理のない規模のPoCから始められたのがよかったと思います。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
苔の種を蒔くタイミングは春先がベストですが、施工が決まった時点で2週間ほどしか猶予がなく、その間に更地にして苔を栽培できる状態にする必要がありました。当初は3日間の作業日数を見込んでいましたが、最終日に雨が降るということで、2日間での完了を余儀なくされてしまって。しかも風が強くて、複数人でシートを押さえないと飛ばされてしまう状況でした。
そこで塩田さんに相談したところ、すぐに人員補充の手配をしてくれました。おかげで作業が捗り、春先までに種まきを終えることができました。困ったときに遠慮なく言葉のキャッチボールができ、スピーディに対応していただけたので本当に助かりました。
西鉄・塩田氏
新領域事業開発部には、“何かあったときはスタッフ総出で手伝おう”という組織文化みたいなものが根付いているんです。
西鉄・末永氏
新領域事業開発部という部署ですので、新規事業に取り組んでいるメンバーが集まっている。新しいことを始める大変さを分かっているので、自然とお互い助け合うようになります。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
駆けつけてくれたと思ったら、すぐにスーツ姿のまま作業を始められたんですよ。「服が汚れますよ」とお伝えしても、まったく気にすることもなく。「ここまでやってくれるんだ」と感激したし、何よりありがたかったですね。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
苔栽培を経験していない方ならではの客観的な意見が、新鮮で勉強になりました。例えば、従来どおり種蒔きをしていると、皆さんから「このやり方のほうが効率的じゃないですか?」というふうにアイデアを出してくれます。すでに秋の作業に関しても、効率的な方法を提案していただいています。このように、新たな視点に気付くことができるのも、『Join up with Nishitetsu』の魅力ではないでしょうか。
西鉄・末永氏
腰が痛くならないように種を蒔く方法を考える社員もいれば、いかに低コストで機械を導入するかを考える社員もいました。今後も効率よく作業ができるように、みんなで意見を出し合っていけたらいいですね。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
苔は順応植物ですが、環境が大きく変わると影響を受けてしまう場合があります。実は以前、本社のある新潟から四国に苔を移したところ、環境の変化で茶色に変色してしまったことがあって。今回は福岡で栽培した苔を使用していますが、夏の九州でどのような変化が生じるか、どのように生育していくかなどを実証実験できるのは、とても貴重な経験です。
西鉄・塩田氏
当社では以前から、遊休地の有効活用について検討を重ねてきました。しかし、建屋がないと活用しづらく、三沢駅近くの遊休地も手付かずの状態でした。そこで今回の協業を機に、苔の栽培場所として活用してみることにしたんです。順調にいけば秋以降に栽培規模を拡大し、ゆくゆくはここで作られたスナゴケシートを社内利用だけでなく、ほかの企業に販売していけたらと考えています。我々と同じように、雑草問題を抱える企業はたくさんあるはずです。
三沢で行われている、スナゴケシートの実証実験の様子。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
工場や商業施設の場合、緑地法で15〜20%の緑地を設けることが決められていますが、苔シートも緑地にカウントされるんですよ。新潟の本社では、10年ほど前から苔シートを使った遊休地の有効活用に取り組んでいます。メンテナンスや使い勝手の良さを評価していただき、導入される企業も増えています。
西鉄・塩田氏
ほかにも、インテリアとしての活用も検討しているところです。三沢駅近くの遊休地では、苔玉などに使われるハイゴケの試験栽培も行っています。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
苔シートはハサミで簡単にカットできるので、小物の素材にも取り入れやすい。福岡でも、「旭山桜」と呼ばれる手のひらサイズで大輪の花を咲かせる桜に苔を巻き、苔玉として仕立てた商品を百貨店やオンラインショップにて販売いたしました。おかげさまで多くのお客様からご好評いただきました。
西鉄・末永氏
苔の生育状況を見てからの判断になりますが、街の美観という切り口でも展開していけたらいいですね。例えば、ビルの壁面にスナゴケシートを設置すると、給水の必要がないのでランニングコストがかかりません。適切なサイズにカットして後からでも設置できるため、販売の仕方を考えていきたいと思います。
施工場所の広さや形状に合わせて自由にカットできる。
西鉄・江頭氏
理想としては、駅前のロータリーやバスの待合所など、お客様の目に触れる場所に施工できたらいいですね。雑草対策だけであれば、ほかの防草シートでも対応できるかもしれません。しかし美観まで意識すると、やはりスナゴケシートはとても有用だと思っています。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
九州で営業展開をするなかで、西鉄さんとの協業が強みになっていることは間違いありません。営業先の担当者の方も、最初は「苔ですか?」と慎重な姿勢でも、西鉄さんと一緒に栽培していることを伝えると、「あの西鉄さん?」と反応が変わるんですよ。やはりネームバリューは強いなと感じています。
西鉄・末永氏
西鉄はこれからも福岡の街づくりに携わっていきます。だからこそ、我々だけが豊かになるのではなく、地元の企業や住民の皆さんと一緒に街を盛り上げていきたいと考えています。今回のオープンイノベーションも、それに向けた活動の一環だと思っています。
西鉄・塩田氏
グリーンズグリーン九州さんとの実証実験は、社内の課題解決だけではなく、事業化の検討にまで進展しています。『Join up with Nishitetsu』における、ひとつの成功事例を作ることができたのもよかったですね。
西鉄・末永氏
昨年度の提示課題を改良したほか、ワンビル内で運営する天神福食堂や、インキューブなどの物流関連の課題も加えました。募集する事業領域は6セグメントから9セグメントに拡大。課題の内容もかなり具体的になっています。
グリーンズグリーン九州・梶原氏
先ほどもお話ししましたが、西鉄さんとの協業がきっかけとなって、大きなビジネスチャンスが生まれました。今、ものすごいスピードで事業が展開していることを、私を含め全社員が感じています。グリーンズグリーン九州だけでなく、グループ全体の追い風になっていることは間違いありません。心から参加してよかったと思っていますので、ぜひ皆さんにも応募していただきたいですね。
西鉄・末永氏
我々は新しいテクノロジーに、強い興味をもっています。初年度では、我々の期待をはるかに超える技術やアイデアが集まりました。これこそがオープンイノベーションの面白いところだと感じています。不明なことがあれば、まずはご相談いただけると、できる限りの対応をいたします。我々は西鉄の社員ではありますが、スタートアップ企業のパートナーのつもりでいますから。
西鉄・塩田氏
提案していただいた内容は、じっくり拝見して、内容のブラッシュアップのご相談にもご対応します。「西鉄、これやればいいじゃん!」というアイデアを、たくさんお待ちしています!